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大阪地方裁判所 昭和57年(ワ)4349号 判決 1983年9月30日

原告

バンク・オブ・インディア

右日本における代表者

パヤピリル・ポウエルス・エイブラハム

右訴訟代理人

宮武敏夫

藤田泰弘

直江孝久

若井隆

由布節子

高松薫

山口三恵子

石坂基

被告

クリップス・コーポレーションこと

ホンコン・ジャパン・セキュアリティーズこと

ナライン・ウタムチャンド・キルパラニ

右訴訟代理人

鈴木透

主文

一  被告は、原告に対し、一億六一〇〇万円並びに内金六三〇〇万円に対する昭和五七年五月二八日から支払済みまで年九分及び内金九八〇〇万円に対する昭和五二年九月二七日から支払済みまで年一割の各割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

三  この判決は、第一項に限り、原告が一〇〇〇万円の担保を供するときは、仮に執行することができる。

事実《省略》

理由

第一まず、本件訴訟の裁判管轄権及び被告の当事者適格について判断する。

(一)  裁判官轄権について

原告は、本店をインド共和国ボンベイ市に、支店を香港及び日本に有する外国銀行であること、被告はインド人であることについては当事者間に争いがなく、本件訴訟が、原告の大阪支店と香港支店における被告との間の当座勘定取引契約の終了に基づいて、原告から被告に対し、貸越残高を請求するものであることは、記録上明らかである。

ところで、原、被告とも外国人である場合には、主権の一作用としてなされる日本の裁判権は原則として及ばないといわざるを得ない。しかし、本件においては、被告が自ら進んで当裁判所の裁判権に服し、訴訟を進行してきたことは当裁判所に顕著な事実である。そして、<証拠>によれば、被告は、その職業上日本に常駐するものではないが、肩書地を日本国内における一応の住居地と定めていること、被告は、原告大阪支店との取引に関して、大阪市内にある被告所有の不動産について根抵当権を設定し、日本国が被告の一般責任財産の所在地であることが認められる。してみれば、本件訴訟につき国際裁判管轄を直接規定する法規や一般に承認された国際法上の原則も末だ確立していない現状のもとにおいては、当事者の公平、裁判の適正、迅速の観点より日本の裁判権に服させるのが相当であり、当裁判所に管轄権があるものということができる。

(二)  当事者適格について

<証拠>によれば、被告は香港において破産宣告を受け、香港にある被告所有の財産に対し破産手続が進められたことが認められる。しかし、破産に関する裁判は、特別の法令若しくは国際条約がない以上、破産宣告裁判所所属国の裁判が執行力を有する地域内に限り効力を有するものであるから、香港において宣告した破産は日本においてその効力を有するものではない。してみれば、被告が香港において破産宣告を受けたからといつて、本件訴訟の当事者適格に影響を及ぼすものではないというべきである。

第二そこで、本案について判断する。

一請求原因第(一)項の事実(当事者)は、当事者間に争いがない。

二原告大阪支店の取引について

(一)  本件請求は、インド共和国に本店を置く外国銀行である原告が、インド人である被告に対し、原告大阪支店と被告との間の当座勘定取引契約の終了に基づき、当座貸越残高の支払を求めるものであることについては先に認定したとおりである。そして、<証拠>によれば、大阪支店と被告との間の当座勘定取引契約は日本において締結されたものであることを推認することができる。してみれば、右契約当時、原、被告間において準拠法の指定につき特段の明示の意思表示がなされたことについて何らの主張立証のない本件のもとにおいては、右請求については、日本国法が準拠法となる。

(二)  <証拠>によれば、原告は、被告との間で、昭和四五年四月三〇日、口座名をクリップス・コーポレーション第二口座とし、その管理者並びに小切手及びその支払指図の署名者を口座取得者である被告又はその適法に選任する代理人とする旨の約定で、当座勘定取引契約(以下「本件大阪契約」という。)を締結したこと、原告は、被告との間で、昭和五〇年一〇月二七日、本件大阪契約につき、当座貸越限度額を四〇〇〇万円、利息を年九分又は原告の通知する改訂利率を下らないものとすること、原告において、本件大阪契約を一方的に任意に解約できること、という特約を締結したこと、昭和五七年五月二七日現在における本件大阪契約の当座貸越残高は、六八四四万八〇三三円であることが認められ、右認定に反する証拠はない。そして、原告は被告に対し、昭和五七年六月二一日到達の本訴状をもつて、本件大阪契約を解約し、当座貸越残高の支払を求める意思表示をしたことは、当裁判所に顕著な事実である。

(三)  以上の認定事実によれば、被告は、原告に対し、本件大阪契約の終了に基づき、当座貸越残高六八四四万八〇三三円並びにこれに対する昭和五七年五月二八日から解約の意思表示が到達した日である同年六月二一日までは年九分の割合による約定利率及びその日の翌日である同月二二日から支払済みまで年九分の割合による遅延損害金の支払義務のあることが認められる。

三原告香港支店の取引について

(一)  本件請求は、前記認定のとおり、原告香港支店と被告との間の当座勘定取引の終了に基づくものである。そして、<証拠>によれば、右契約は香港において締結されたものであることを推認することができる。してみれば、原、被告間において、右契約締結当時、準拠法の指定につき特段の明示の意思表示がなされたことについて何らの主張立証のない本件のもとにおいては、右請求については、英国法が準拠法となる。

(二)  <証拠>によれば、原告は、被告との間で、昭和四八年四月一九日、口座名をホンコン・ジャパン・セキュアリティーズとし、その管理者並びに小切手及びその他の支払指図の署名者を口座取得者である被告とする約定で、当座勘定取引契約(以下「本件香港契約」という。)を締結したこと、原告は、被告との間で、昭和五〇年八月一三日、本件香港契約について、同支店の裁量において一方的に任意に解約できる旨の特約を締結したこと、原告は、被告に対し、昭和五二年四月二五日、同日以降の本件香港契約の利息割合を年一〇パーセントの割合にする旨の改定をしたこと、同年九月二六日現在における本件香港契約の当座貸越残高は、二八八万2614.59香港ドルであることが認められ、右認定に反する証拠はない。そして、原告が、被告に対し、昭和五七年六月二一日到達の本訴状をもつて本件香港契約を解約し、当座貸越残高の支払を求める旨の意思表示をしたことは、当裁判所に顕著な事実である。

次に、本件請求は、外国金銭債権を日本の通貨によつて請求しているものであるが、弁論の全趣旨によれば、本件香港契約における当座勘定取引の対象貨幣単位を香港ドルとしたのは、契約締結地の通用貨幣単位であること以外に特段の理由が認められない。してみると、香港ドルをもつて計算の標準としたのは、支払貨幣を定めたものではなく、いわゆる勘定貨幣として使用しているものと推認できる。そして、本件最終口頭弁論期日である昭和五八年七月八日当時の為替レートは、一香港ドルが三四円二二銭であることは公知の事実であり、右の為替レートでもつて288万2614.59香港ドルを日本円に換算すると九八六四万三〇七一円(但し、円未満切り捨て。)となる。

(三)  以上の認定事実によれば、被告は、原告に対し、本件香港契約の終了に基づき、当座貸越残高九八六四万三〇七一円並びにこれに対する昭和五二年九月二六日から解約の意思表示が到達した日まで年一割の割合による約定利息及びその日の翌日から支払済みまで年一割の割合による遅延損害金の支払義務のあることが認められる。

第三結論

以上の理由により、原告の本訴請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を、仮執行宣言の申立につき同法一九六条一項を、それぞれ適用し、主文のとおり判決する。

(福永政彦 小野剛 青野洋士)

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